さて最後です。今回は奏者からの視点です。
いつも思うのですが、ステージで演奏している我々が何を、どう感じて
いても、それが客席で聴いているお客さん達に伝われなければ、意味が
ないと思うのです。
ロールは客席でロールに聞こえてこそ意味があるし、バスドラムの
重低音がステージだけで止まっていては、バスドラムの役割は果たせ
ません。
今回の指揮が遅れる問題もそうです。
ステージで打楽器の音が指揮より早かろうと遅かろうと、管楽器より
早かろうと遅かろうと「客席でどう聞こえているか」が一番大切です。
じゃあステージではメロメロでいいのか?と言うと決してそうではなく、
ステージで演奏している我々が気分良くなければ、良い演奏になるのは
難しいでしょうし、その気分は確実に客席に伝わります。
それを一番客観的にモニターできるのは指揮者だと思います。前回、
自分が「バンドの中で一番お客に近い耳を持っているのは指揮者」だと
書いたのはこのためです。
同様に前回、「指揮者が振るのはテンポだけでは無い」と書きましたが、
結局大切なのは「指揮に合わせる」事ではなく「指揮者の音楽に合わせる」
事、すなわち「音に合わせる」事が大切だと思います。
管の音や他の打楽器とタイミングを合わせるのは奏者の仕事です。
たまたま「奏者の仕事」などと書きましたが、仕事は他にもたくさん
あります。
打楽器奏者たちの奏法はどうでしょうか?
ベタベタとしたタッチでスネアドラムやシロホン、グロッケンを演奏しても
立ち上がりの良くないハッキリとしないサウンドになってしまいます。特に
速いテンポの曲では、タイトなグリップでエッジの立った音でプレイ
しないとそれだけで「遅れて」聞こえます。
チューニングがどうでしょうか?スネア、バスドラなどはチューニングが
良くないとアタックのハッキリしないサウンドになってしまいますし、
ティンパニは音程感まで失います。
奏者たちは各打楽器の特性は把握しているでしょうか。タンバリンは皮→
ジングルと発音にタイムラグが起こります、スネアも表皮→裏皮→
スナッピーと振動は伝わります。バスドラムは音の立ち上がりが遅く
アタックが不明瞭になりがちです。
シンバルは楽器自体が重く、楽器の保持だけでも意識の大半がもって
行かれます。
そんな中で、強弱のコントロールをシンバル同士の「距離」で行うので、
タイミングの調整に技術が必要です。
テンポ感やリズムの取り方に問題はないでしょうか?
打楽器は休符の取り扱いが甘い奏者が多いです。
「音のない音符として、休符もちゃんと演奏する」
「休符の間も音楽は進行している、完全に休んでしまわない」
「細かな休符は「固く」感じると、逆に音符クリアになる場合が多い」
などと休符を大事に取り扱いさせると良いようです。
話が前後しますが、若い打楽器奏者達は音符の扱いも上手ではあり
ません。これはいかんともしがたい打楽器の特性、すなわち「音が
伸びない」ことも原因の一つだと思いますが、出した音に長さを感じない
奏者が非常に多いです。ですから打楽器奏者たちはテヌートやスラー
スタッカート、マルカートなど、音符の表情や長さを操作する奏法が
非常に苦手です。管楽器がテヌートで吹いているのに打楽器が「点」を
押さえるような奏法では、アインザッツも合いにくいでしょう。
基礎練習はどんな感じでしょうか?
メトロノームに合わせる→頼る、ような練習のしかたでは、合奏でも何か
ガイドになるような音を探す事になります。頼りになる音を探す、それに
合わせて音を出すのでは遅れて当然です。
指揮だけ、バンドだけ、チューバだけ、バスドラムだけ、ドラムセット
だけに合わせる様な演奏では、面白みのない消極的なプレイに終始して
しまいます。
そう言えばBennusさんは「打楽器の遅れが気になることが多い」と最初に
書かれておられますね。生徒さんは「遅れる」だけで「つっこむ」事は
無いのでしょうか?常に遅れるのであれば上記の「頼っている」状態で
演奏している可能性があります。
同様に指揮に「頼ってる」状態も考えられます。それを気づかせるため、
合奏の途中に思い切って指揮をやめてみるのも方法です。
自分たちの演奏した録音を聞かせるのも方法でしょう。
さて最後に
>「メトロノームを使った練習のときには,メトロノームの音が聞こえない
>ぐらいぴったり合わせることができている。」といいます。
メトロノームに合わせられるなら、回りの音に合わせることもできるはず
です。これはそれが出来ないための言い訳にすぎません。お客にはそんな
言い訳は通用しません。
バンドが持つビートやリズムの「着地点」を予想しながら打楽器をプレイ
するようにすると良いと思います。早く叩くとか前倒しに演奏するのでは
ありません。頼りにするのを止めるだけでもだいぶ違ってくるでしょう。
>「ここは管楽器が打楽器に合わせて」と指示し,私が「合った」と
>判断した瞬間について,その生徒は,「あの時は管楽器が遅れていると
>感じた」と言います。
だいぶ打楽器パートに手厳しいことばかり書きましたが、バンド自体の
ビート感、テンポ感はどうでしょうか。打楽器の無い状態でもイキイキと
した推進力のある「拍」が出ていますか?
管と打楽器が聞き合うのは必要なことですが、べったりともたれかかって
頼りにし合うと、相手の音がないと音を出せなくなります。
>何例か,「打楽器は,指揮より瞬間早く打つのが良い」というような
>記述も見つけました。
>打楽器の人たちが,「指揮よりちょっと早めにたたくんだ」など会話
>しているのを小耳にはさんだこともあり,この説が,私にとっては
>説得力を持っています。
間違いではないと思います。そんな場面もあるでしょう。
でも常に「回りより早く」演奏する事なんて可能でしょうか?気持ち悪く
ないでしょうか。
前に書いた、奏法、チューニング、楽器の特性の把握ができていないと
いくら早く叩いても、だらりとした印象は変わりません。
以上です。思いつくままに主観的で好き勝手な事ばかり書いてしまい
ました。失礼な書き方もあったかもしれません。これだけの文章ですから
「勢い」が無いとですねえ・・・と言い訳させてください
