以前TOEICを受けてからもう20年近く経つかもしれない。勤めていた
N社の施設内で強制的に受けさせられたのをよく覚えている。団体受験と
いうやつだ。英語なんて全く興味もなく、学問の中でもっとも不得意で
あったぶんぶんは、そのとき260点前後のしょぼい成績をおさめたような
記憶がある。事前通達もなくいきなり受けさせられたとはいえ、大学生の
平均点の約450点にも満たないお子チャマレベルであった。
ぶんぶんの今の英語力がどの程度かは定かではないが、大学院生の平均
が500〜600点なので、英語の点数が影響して大学院入試に落ちるのは必然
だったのだ。
そんな英語が不得意なぶんぶんなのに、高校生のときの英語の中間・期末
テストは100点ばかりとっていた。悪くても90点は確実にとった。そんなに
高得点が取れるのに英語が不得意なのはおかしいのではないかと思われる
かもしれないが、ぜんぜんおかしくないのだ。
そう、あのおっさんと出会わなければ、ぶんぶんの英語力はもう少し
ましになっていたかもしれない。ちょうどドラゴンボールZが水曜7時
に放映されていたあの時代のことだ。
そのおっさんは、授業が始まると何やらビニル袋に大量のヤクルトを
ひっさげて教室の中に入ってきた。高校の英語教師「ウーロン」だ。
髪は白髪交じりでピッチリ七三分けのカリアゲ、色白でデップリとした
お腹を突き出し、いつもノソノソと歩いている。体型だけを見れば
牛魔王なのだが、色白で小振りだからウーロンなのだ。
ウーロンは中に入ると挨拶をすることもなく、いきなりクラス全員に
一人ひとり手渡しでヤクルトを配って回るのだ。月に1度は授業中に
ヤクルトを飲ませてくれる気前のよい先生だ。ローリーエースではなく
ヤクルトだからだ。
無言で淡淡と50人に配り終えるのに1分もかからない。ウーロンは
そうとう配り慣れているようで、ヤクルトを配らせたらウーロンに
かなう者はいないだろう。
全員がヤクルトを飲み終えると授業が始まる。しかしだれもその授業
を聞いていない。ほとんど生徒は机の影に漫画本を忍ばせて警戒する
こともなく粛々と読んでいる。ぶんぶんももれなくその中の1人で
あり、両さん(こち亀)を読んでいた。授業中に漫画を読んでいるのが
明らかなのに、ウーロンは注意することもなく見て見ぬふりをして授業
を進めるのだ。
授業を聞いていないのになぜ英語のテストで高得点が取れるのか
不思議に思うかもしれない。なんてことはない、中間・期末テストが
近づいてくるとウーロンが試験にでる箇所を全部教えてくれるからだ。
「ハイ、ここテストに出まーす」
そのときだけクラスの全員が、血まなこになってノートをとる。いつも
授業を聞いてくれない生徒たちが私に注目している、なんてまじめな
生徒たちなんだと言わんばかりに、ウーロンは誇らしげな顔になる。
ウーロンが「ハイ、ここテストに出まーす」といった箇所をノートにとり
全部丸暗記さえすれば誰でも確実に100点がとれるシステムになっている。
必ず試験に出るからだ。しかも言ったところしか出ないのだ。ぶんぶんは
昔から、時間はかかるが丸暗記系の勉強が得意なお子チャマだった。
だから英語で100点をとるのは難しいことではなかったのだ。
3年間そういうことを繰り返していたから、だれも英語の授業を聞か
なくなってしまうのだ。体は大人でも高校生はまだまだお子チャマで
ある。ぶんぶんはテストの点数さえ良ければそれでよいと思っていた。
ウーロンが唯一残してくれた功績がある。「カンタマ」だ。
ある英語の中間か期末テストに出た漢字書き取りの問題である。
ウーロンはテストが近くなると「ハイ、ここテストに出まーす」といい、
黒板に大きく「完璧」と書いた。完璧(カンペキ)の璧(ペキ)の下は
土(ツチ)ではなく玉(タマ)であることをしつこいほど生徒たちに訴え
かけるのだ。
「カンタマと覚えてくださーい」
よく完璧を完壁と間違えて書いてしまう人が多いらしい。自分の生徒
たちにはそんな間違いをして欲しくないと言うのだ。
試験の日になると、時どき赤点を取るような連中までもが直前まで
「カンタマ、カンタマ」
とお互いに確認し合っている。そのぐらい「カンタマ」は生徒達の
心に突き刺さっていたのだ。彼らが苦手とする英語の問題ではない
からなおさらだ。ウーロンの力強い訴えによって、誰ひとりとして
「カンタマ」の問題を間違ったやつはいなかった。
なぜ英語のテストに漢字の書き取り問題が出るのかは突っ込まない
ことにするが、ウーロンのおかげでぶんぶんのその後の人生において
完璧を完壁と書いたことは一度もない。
ウーロンに教えてもらった高校英語に関する記憶は全くない。
ウーロン唯一の功績が「カンタマ」である。ヤクルトのことも忘れて
はいけない。
ぶんぶんは高校入試の受験勉強おかげで、得意とはいえないが中学
までは英語が苦手というわけではなかった。そして高校生の間は良い
成績を残したので、英語が苦手になっていることに気づくことがなか
った。今思えばなんて浅はかで青臭い高校生活を送っていたのだろう。
だからぶんぶんの英語力は、大人になっても平均的な社会人よりも
かなり低く中学生レベルなのだ。とはいえ、大学の教養科目や大学
卒業後もそれなりに英語の勉強をしてきたので、少しばかりは大学生
の平均点レベルに近い英語力があることを期待したい。
そんなこんなで自分の英語力がどの程度まで成長したのかを確かめる
べく、今度は自費で人生2度目のTOEICを受けてみたのである。
次回に続く...
※私が発行するメルマガ『はじめーる Vol.1459』からの転載
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